直立歩行を始めた人間が空を見上げたその瞬間から、1609年12月のある夜が訪れるまで、人間はすべて大空の前で平等だった。その夜、ガリレオは天文学者として初めて天体に望遠鏡を向けた。天文学史上最も美しい夜が訪れたのだ。このガリレオの夜以前、知性に違いはあっても、夜空を見るために人が使えるのは、その人が持つ肉眼だけだった。しかしそのガリレオ以前、すなわち、望遠鏡という科学的な研究手段を手にする以前でさえ、天文学を数学に次ぐ精密科学だとした者は存在していた。一方、天空を観察して、神話を作り上げた者もいる。そういった神話は、往々にして取るに足りない伝説、昔話、民話のたぐいに成り下がってしまった。また、農業、航海、気象に関する法則を経験的に編み出した者もいる。空を見て単に夢想する歓びを引き出した者もいる。彼らはみんな天空のおかげで、想像力を豊かにし、自分の可能性をひろげた。
ヴェルデ,ジャン=ピエール(1992)『天文不思議集』 (荒俣宏監修 , 唐牛幸子訳)p.21, 創元社.