学問の世界において、どうすれば創造性を発現できるのか。私は自分自身に向かって、この問をくりかえし発してきた。そして、いろいろな角度から、この問に対する部分的な答えをあたえようと試みてきた。その中のひとつとして、私たちが日本人であるという角度からの接近がある。……日本人の創造性を問題にする場合には、学問の世界に話を限ってしまうわけにはいかない。長い歴史の中で日本人が創造性を発現してきたのは、学問よりはむしろ芸術の世界においてであったことは、誰の目にも明らかであった。それどころか、学問とか芸術とかいう狭い意味の文化活動だけを、日本人の生活一般の中から切りはなして取り出すことさえ適切でないのである。一口に日本文化といわれるものの中で、日常生活と密着した部分の占める比率が異常に大きいことは、伝統的な家具・調度の類や庭園などを思い浮かべるだけで、ただちに納得されるであろう。生活の芸術化とでもいうべき傾向が、日本文化の重要な特色のひとつでもあったのである。
湯川秀樹・上田正昭(1971)『日本文化の創造』p.1-2(湯川氏によるまえがき), 雄渾社.