生物がなぜ水っぽいかというと、水の中では、化学反応が活発に起こるから。……一方、人工物が乾いているのは、その逆です。化学反応が起こってもらってはこまるからです。湿っていると長持ちせず、すぐに壊れてしまいます。つまり鉄なら錆びるし、木製品なら腐ります。……
生物は水が主成分です。その水がしなやかな膜で包まれたものが生物です。……つまり生物は基本的には水の詰まった皮袋なのであり、水っぽくてプヨプヨとやわらかなのです。……
生物は、外から加わる力に抵抗するに当たって、しなやかさを武器とします。柳に風。竹に雪折れなし。力が加わっていたら、しなやかに変形して、力をいなしてしまいます。……私たちだってそうですね。机の角に引っかかっても、皮膚が変形しますから、するっと通り抜けられます。……ところが人工物はそうではありません。力が加わっても、ほとんど変形せずに、大きな力であれ小さな力であれ、まともにその力に抵抗します。鉄もコンクリートも、皆そうです。……
生きているとは水っぽいということです。そして水っぽければやわらかくしなやかで、自分の力で動きまわったり、まわりの風や流れの力を受けて揺れ動きます。死ねば水気が失われ、硬く動かなくなります。
本川達雄(2011)『生物学的文明論』p.119-128, 新潮社