新しいものには何もなく、かどがとれぬ。時代を経るということは、とげとげしさを消磨させる意味になる。古いというただその事実が、その物に対して何かしら親しみを覚えさせる。人間は「過去」から出て来るのであるから、自らその出処に対するあこがれを持つ。未来に対してもあこがれを持つが、まだ踏みも見ぬ天の橋立で、一種の危惧がある、これが希望である。過去には危惧はない、とにかく通って来たので、このあこがれには望みはないが親しみはある。……
新しいものには奥行がない、何もかも目に見えるだけである。古いものは、これに反して、深味を持っている。この深味に不思議がある、この不思議が人の魂を引きつける。
鈴木大拙(1997)『新編 東洋的な見方』(上田閑照編)p.230-231, 岩波文庫.